写真は過去と未来を結ぶ

2025年6月3日放映、連続テレビ小説「あんぱん」第10週「生きろ」(47)の放送の終盤、主人公ノブとその夫のやり取りが印象に残りました。
太平洋戦争が始まり、アメリカやイギリスが参戦し戦況が厳しさを増す中、ノブの夫はインド洋の航海ができなくなったことを理由に早く家に帰ってきます。二人が食事を終えた後、赤いランプに照らされた暗室でのシーンが展開されます。私は最近モノクロ現像をしなくなったものの、こうした暗室の描写を見ると、以前の暗室を思い出し、目や鼻、作業の手先までが自然と反応してしまいます。
ノブが「どうして写真が好きになったの?」と尋ねると、夫はこう答えます。「航海に出ると、見たこともない外国の景色や人々に出会う。写真はそれを切り取って、君にも見せられるんだ。写真を撮ると、その瞬間だけでなく、その前後の時間にも思いを馳せたくなる。彼らがどんな人生を送ってきたのか、これからどんな未来が待っているのか、知りたくなるんだよ。」ノブは「じろうさんは、戦争が終わったらそれを自分の目で確かめに行きたいの?」と問いかけ、夫は「ノブといろんなところに行ける時代になるといいな」と応えます。
このシーンを通して、写真は単なる記録ではなく、記憶の前後に思いを馳せるメディアであり、想像力を喚起する存在なのだと改めて感じさせられました。人の記憶は時とともに曖昧になってゆきますが、過去に撮られた一枚の写真が、その時の印象を蘇らせ記憶を強くしてくれもします。写真の役割で重要なのは、記録の正確さを確認するためではなく、想像させる行為そのものだと思います。
朝ドラでは、毎回の終盤に次の展開や未来をほのめかし、たいていは想像した通りの展開の中で、視聴者を納得させたり、安心させたり、悲しませたりといった感情を揺さぶる演出をします。
戦況がこれからさらに厳しくなることは誰もが予感しますが、困難な状況の中で夫や戦争に行った人々がどうなるのか、近未来を漠然と想像させてくれます。それは写真が過去と未来をつなぐメディアであることと似ている気がします。ここで登場した写真は、後に続く物語のための伏線となるのでしょう。たとえカタストロフィがあったとしても、時が経てば写真は生き残った人々の人生において重要な役割を果たすことになると思っています。