複眼を持っている虫などと違って人の目は二つしかありません。二つの目がある理由は距離をつかんだりするため。それぞれ別のものを見ているわけではないので基本一箇所あるいは一点しか同時に見ることができません。とくに目を凝らせば凝らすほど周りが見えなくなるのは目の悲しい機能のようにも思えます。全体像を掴むためには常に目をキョロキョロするしかありません。
写真の視点でこの風景を見た場合、いくつかの要素に分解できます。波は激しく動き、雲はゆっくり形を変えます。それに対して岩や遠くの大野亀はほとんど変化がありません。一枚の写真にする場合には激しく動くものを優先します。写真を撮るほとんどの人が意識していることだと思いますが、大きく分けると、構図を支配している要素と不確定要素の二つです。
この写真では岩や空が全体の中で少し支配的すぎるような気がします。波や雲の動きがあっても、少し窮屈な感じもします。しかしながらあまりにも気持ちの良い雲や波を、硬くて黒い岩と対比するのに咄嗟に判断して撮影したと記憶しています。
少し堅苦しい感じの写真になりましたが、構図を決めてその中に雲や波をはめ込んだように見える写真が成功だったかどうか。波を見ているときには既に構図が決まっていて、ほぼ波しか見ていません。私の目が複眼だったら、はたしてどんな写真が撮れたのでしょうか。
PENTAX67+75mm
©️photo by Nakamura Osamu